研究概要 |
当初の研究計画どおり、ヒト大動脈平滑筋細胞とラット血管平滑筋初代培養細胞(SMC細胞)を用いて以下の研究成果を得た。(1)SMC細胞にはエストロゲン受容体(ER)α,βが存在することをRT-PCR法を用いて確認した。(2)SMC細胞は高濃度(10%)の血清あるいは血小板由来増殖因子(PDEF)の存在下で増殖は1.3-1.5倍刺激されたが、10^<-9>M以上の濃度のエストロゲンはこれを有意に抑制した。(3)ERアンタゴニストを用いた実験からエストロゲンの血管平滑筋増殖抑制作用はERを介するものであることを確認した。さらに、核内に移行しないE2-BSAとactinomycin Dを用いた実験で上記の作用の少なくとも一部にはエストロゲンのnon-genomicな作用が関与することを確認した。(4)エストロゲンのnon-genomicな作用について、Extracellular Signal Regulated Kinase(ERK), Jun N-terminal kinase(JNK), p38の3つのMAP kinase経路の関与について検討したところ、上記の増殖刺激のもとでエストロゲンはERKのリン酸化を強く抑制するとともに、p38経路のリン酸化をdose-and time-dependentに誘導した。JNK経路に対しては有意な効果を示さなかった。(5)p38は多くの細胞でアポトーシスを誘導する経路であるので、エストロゲンがSMC細胞でアポトーシスを誘導するのか否かを検討した。エストロゲンは増殖刺激下にあるSMC細胞でアポトーシスを誘導した(Hoechst染色とTUNEL法の2法で確定)。さらに、これはp38経路の阻害剤であるSB203580で有意に抑制されたことから、エストロゲンはp38経路を介してアポトーシスを誘導し、SMC細胞の増殖を抑制することが示唆された。これはエストロゲンの動脈硬化抑制作用の一つの機構であろうと考えられた。平成15年度は当初の予定どおり、エストロゲンのgenomicな作用について解析を進める予定である。
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