研究概要 |
本年度は習慣性流産の内分泌因子の一つとしで知られる甲状腺ホルモンが絨毛外トロホブラスト(EVTs)に与える影響について培養細胞系を用いて検討した。細胞・細胞基質接着関連分子であるintegrin α5β1、oncofetal fibronectin(FFN)、細胞外基質の分解酵素であるmatrix metalloproteinase (MMPs)、およびMMPsの活性を調節するMMPs阻害因子(TIMPs)に注目し、fibronectin coating dishを用いた妊娠初期EVTの初代分離培養系に甲状腺ホルモンを添加し、添加後48時間後の細胞内mRNA発現をRT-PCR法、細胞内蛋白発現を免疫組織学的手法により解析した。 培養EVT細胞においてintegrin α5β1, FFN, MMP2, MMP3およびTIMP1のmRNA発現が認められた。この中で、甲状腺ホルモン添加(T3 10-8 M)により、integrin α5β1, FFN, MMP2, MMP3のmRNA発現は対照例に比し増加した。免疫組織学的検討により、MMP2, MMP3およびTIMP1の局在が観察され、甲状腺ホルモン添加によりMMP2およびMMP3の染色強度が対照例に比し増強した。以上の成績から、生理的濃度の甲状腺ホルモンは妊娠初期絨毛外トロホブラストの細胞接着関連分子の発現を介して、脱落膜への絨毛外トロホブラストの侵入を促進させ、ひいては妊娠の維持機構に寄与することが示唆された。 今後は甲状腺ホルモンが絨毛外トロホブラストにおける血管新生関連因子であるangiopoietinやadrenomedullin発現に与える影響に注目し検討を行う予定である。
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