研究概要 |
哺乳動物の卵細胞周囲を取り巻く透明帯は、細胞外マトリックスの一種で、ZP1(ZPB),ZP2(ZPA),ZP3(ZPC)と呼ばれる3種の糖タンパクから形成される。透明帯は受精において、精子の動物種を認識し、一部の例外を除いて同種の精子のみを通過させ、受精に導く。本研究の目的は、透明帯のこの機能を分子生物学的にあきらかにすることである。ZP2およびZP3をヒト型に変換した遺伝子改変マウスの作成に関してはすでに報告があり、それらの動物の透明帯はヒト精子を通過させないことが報告されている。我々は、ブタZP2(ZPA)を導入したトランスジェニックマウスを作成し、その透明帯がブタ精子と結合するか否か調べることにより、透明帯の動物種認識機構を担うタンパクドメインをあきらかにすることを計画した。構築したブタZP2発現ベクターはin vitroで発現し、細胞外に分泌されたにもかかわらず、これを導入したトランスジェニックマウスではそのタンパク発現は、卵母細胞内に限られ、透明帯に取り込まれなかった。これは、ZP2ノックアウトマウスにブタZP2遺伝子を導入した場合も同様であり、マウスZP2との競合によりブタZP2が透明帯形成に寄与できない可能性は否定された。すなわち、透明帯を構成するタンパク間にも動物種特異性があることが判明した。ブタZP2において、ヒトで報告されたキメラ透明帯の構築ができなかった原因として、まず、アミノ酸配列の類似性の差が考えられる。これに関しては、マウス-ヒトZP2間では60%、マウス-ブタZP2間では54%のアミノ酸の類似性であった。6%の差がキメラ透明帯形成に影響したのか、あるいは透明帯タンパクの集合に係わるクリティカルなアミノ酸がブタでは異なるのか、今後の検討課題となった。以上より、本研究課題では、透明帯の生合成に関して、動物種特異性が存在することを示した。
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