研究概要 |
角膜上皮幹細胞の同定、特性解析を目的として、まず輪部基底細胞の遺伝子発現解析を行うこととした。そのためには輪部基底細胞だけを選択的に採取する手法が必要となる。これにはレーザーマイクロキャプチャー法が最適である。しかしそれから採取できるRNA量は極めて微量で1ng程度しかなく、ここから正確な遺伝子発現解析を行うにはそれに特化した方法論の確立が絶対的に必須であった。このためまずレーザーマイクロキャプチャーで採取できる微量なtotal RNAから正確な遺伝子発現解析を行うための方法論の確立を行った。条件検討を行ううちcDNA合成時の効率を改善することがもっとも重要であることが明らかとなった。また増幅時に生じる遺伝子発現プロファイルの歪みを低減するために従来法とは違うアダプターをデザインした。結果としてあたらしい増幅おける増幅時の歪みは従来法にくらべ著明に低減し、1ng程度の微量RNAからでも十分に正確な遺伝子発現解析が可能であることが判明した。この新しいiAFLP法を使って角膜、輪部、結膜の基底、中間層、表層細胞の遺伝子発現解析を行い、角膜特異的に発現する遺伝子をいくつか同定した。この中に含まれるCLCA2に対しては特異抗体を作成し、CLCA2が皮膚表皮細胞、角膜上皮細胞を含むケラチノサイト系上皮細胞の基底細胞で極めて特異的に発現していることを見いだした。またCLCA2の他には、角膜上皮幹細胞に特異的な遺伝子としてNGF receptor(p75NTR)を見いだした。カウンターパートであるTrkA, TrkBの発現を調べたところ、TrkAも角膜輪部基底に特異的に染色され、さらにこれらの遺伝子はケラチン12陰性細胞にて強く発現していることが明らかとなり、リガンドであるNGFが輪部基底に存在する角膜上皮ステムセルの維持や特異的な細胞学的性質に強く関連している可能性が示唆された。
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