研究概要 |
(1)頭部・体幹部神経堤細胞に特異的に発現する遺伝子の機能解析 骨などの硬組織は顔面では神経堤細胞由来であるが、体幹部では中胚葉由来であり、体幹神経堤細胞は硬組織に分化しない。この現象の分子的基盤を探るため、ラット胚頭部・体幹部神経堤細胞で発現の異なる遺伝子を検討し、本研究では特に神経堤細胞の遊走に関与するHNK-1糖鎖の合成酵素GlcAT-P, GlcAT-D遺伝子に注目して機能解析を行った。GlcAT-Pは体幹、GlcAT-Dは頭部神経堤細胞のそれぞれsubpopulationに発現した。全胚培養系でこれら遺伝子を頭部神経堤細胞に導入したところ、GlcAT-Dでは遊走距離が短縮し、GlcAT-Pでは延長する傾向が観察された。このことが頭部神経堤細胞の特異的性質に関連する可能性が示唆された。この知見についてはJournal of Anatomy誌にて報告した。 (2)全前脳胞症モデルマウス胚における頭部神経堤細胞異常の解析 全前脳胞症は顔面及び中枢神経系の形態異常を起こす先天奇形であり、Sonic hedgehog (Shh)遺伝子の異常がヒト症例およびノックアウトマウスの解析で指摘されている。本研究ではマウス全胚培養系にShh阻害剤cyclopamineを投与して全前脳胞症のモデル胚を作り、分子レベルでの解析を行った。Cyclopamine投与胚ではマイルドな全前脳胞症様の顔面奇形を呈し、Shhカスケード下流のPatched-1, Gli-1遺伝子の発現抑制を認めた。胚顔面において神経堤細胞のマーカーCRABP-IおよびPax7の発現パターンを調べた結果、神経堤細胞の遊走は阻害されていないが、細胞数の減少を認め、増殖の抑制あるいはアポトーシスの亢進の可能性が示唆された。この知見についてはPlastic and Reconstructive Surgery誌に投稿中である。
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