研究概要 |
1.培養ヒト皮膚リンパ管内皮細胞の増殖活性 成人ならびに新生児のヒト皮膚リンパ管内皮細胞について、種々の成長因子投与下で培養を行い、その増殖活性をMTTアッセイで調べた。その結果、次のことが明らかとなった。 (1)ヒト皮膚リンパ管内皮細胞は、vascular endothelium growth factor(VEGF)およびInsulin-like growth factor(IGF)の両者が無ければ増殖出来ない。 (2)VEGFおよびIGFを投与せずに培養しているリンパ管内皮細胞に、口腔扁平上皮癌細胞株HSC2,HSC3,HSC4,HO1myu1,HO1N1,Ca.922,SAS,KBを加えて共培養を行うと、HSC3,HO1myu1,SASの存在下でリンパ管内皮細胞に増殖が観察され、その生活活性は共培養しないものよりも長く維持された。 この結果は、口腔扁平上皮癌細胞のあるものが、リンパ管新生に必要な成長因子を産生する可能性を示唆するものである。 2.リンパ管内皮細胞におけるToll-like receptor(TLR)2およびTLR4の発現 口腔組織、および成人ならびに新生児の培養ヒト皮膚リンパ管内皮細胞について、TLR2と4の発現に関して検討した。その結果、次のことが明らかとなった。 (1)一般に、角化粘膜のリンパ管ではTLR2と4の発現は見られないが、非角化粘膜に覆われる咽頭、頬、舌下部などのリンパ管はTLR2と4を発現する(投稿中)。 (2)培養ヒトリンパ管内皮細胞は静止期の細胞がTLR2と4を発現する(投稿中)。 (3)リンパ管内皮細胞にグラム陰性菌の菌体成分であるリポポリサッカライド(LPS)を投与すると白血球接着因子、またIL6およびIL8の発現誘導がかかる。この誘導はTLR4を介し、AP-1依存性である(投稿中)。 これらの結果は、リンパ管内皮細胞がTLRを介してpathogen-associated molecular patterns(PAMPs)を認識し、種々の機能分子発現をおこなう可能性を示唆する。また、結果として起こるケモカインの産生は、リンパ球のホーミングパラダイムに一致するかもしれない。このような可能性を探究することは、口腔における炎症・腫瘍の治療戦略が要求する今日の研究分野に大きく貢献すると考えられ、今後の重要な研究課題になると思われる。
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