研究概要 |
GASは咽頭炎等の起因菌として知られていたが,近年,致死率の高い劇症型A群レンサ球菌感染症(TSLS)を引き起こすことで注目を集めている.しかし,このGASが劇症化に転じる機構は不明であり,効果的な治療法や予防法も確立されていないのが現状である.数年前に,従来までの報告とは異なり,GASが宿主細胞に侵入することが明らかにされた.そこで,感染成立の第一段階である細胞への付着と侵入に関与する分子に着目し,そのメカニズムの解析を進めた.新規分子の同定にあたり,これまでの生化学的手法ではなく,遺伝子データーベース利用する手法を採用した.はじめに,細菌が宿主細胞と付着するためには,菌体表層に露出したタンパクが関与するとの仮定を行った.また,細胞侵入性細菌は体内のフィブロネクチン(Fn)をそのFn結合タンパクでトラップし,さらに,そのFnを介して宿主細胞のインテグリンと架橋することが知られていたことから,ゲノムデータベース中の全遺伝子から菌体表層架橋配列およびFn結合モチーフを検索し,付着・侵入分子の候補を選出した.まず,この手法により同定されたFbaB分子の組換え体がFnとの結合能を有し,宿主細胞への付着と侵入に関与する因子であることを明らかにした.併せて,fbaB遺伝子欠失変異株を作製し野生株と比較した結果,同タンパクが宿主上皮細胞への付着・侵入に際して極めて重要に働く分子であることを示した.また,このコード遺伝子はTSLS患者分離株に多く認められる血清型M3,M12,M18の全菌株に保有されていた.さらに,FbaBタンパクは,これらの遺伝子保有型菌株の中でもTSLS患者由来株に極めて有意に発現する分子でることを明らかにした.このような,タンパクレベルでTSLS患者由来株にのみ有意に発現する病原因子の報告はほとんど無いことから,FbaBタンパクがTSLS発症に重要な役割を果たしている可能性が示唆された.
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