研究概要 |
我々は放電を利用したチタンの表面改質について一連の研究を行った.その結果,グロー放電プラズマ(GDP)により表面改質したチタン板上には,RGD鎖を有する細胞接着性タンパクの付着が向上し,骨芽細胞様細胞の初期付着および分化上昇することが判明した.また,陽極GDP処理により,チタン表面のマイナス荷電が上昇し,ナトリウムを核としたリン酸カルシウムの析出が促進されることが確認された.本研究から,GDP処理はこれまで他機関から提唱されている,陰極GDP処理による表面清浄効果よりも,陽極GDP処理による荷電上昇が,チタンの生体適合性向上に有効であることが明らかになった.これらのメカニズムの解明から,チタン板表面に約1μmの骨様ハイドロキシアパタイトコーティング処理が可能となった.本コーティング処理は,ハンクス擬似体液に浸漬したチタン板を陰極,対極に白金箔を設定し,液中放電によりチタン板表面に液中の成分を吸着させ,骨様ハイドロキシアパタイトを析出させる方法である.本コーティング膜は,放電により析出したイオン活性の高いTiO酸化膜の中にコーティング膜の成分が傾斜的に存在しており,母材との密着性も非常に高いことが,X線光電子分光分析によって判明した.また,本コーティング膜の成分は,擬似体液から析出させることから,リン酸基が一部炭酸基に置換された骨のアパタイトときわめて類似しており,そのCa/P比も1.71と骨とまったく同一であることが本研究より明らかになった.一方歯科用インプラントは,口腔内に一部露出する経皮デバイスであることから,優れた骨伝導性と抗菌性を有することが望ましい.本研究では,電解液中での放電陽極酸化処理により,チタン表面に高い抗菌性と細胞適合性を両立させることに成功し,さらにその詳細なメカニズムを解明した.
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