研究概要 |
現在、様々なベクターが癌に対する遺伝子治療に用いられているが、より遺伝子導入効率が高く安全性に優れているベクターの開発が望まれる。アデノウイルスベクターは、様々な利点があるが免疫原生などの欠点もある。そこで、われわれは、カチオニックリポソーム包埋アデノウイルスベクターを作製し、ヒト口腔癌への基礎的研究を施行した。材料と方法:ヒト口腔扁平上皮癌細胞株HSC-2,HSC-3,HSC-4,SAS、マウス扁平上皮癌細胞株SCCVIIを用いた。ウイルスベクターは、βガラクトシダーゼ遺伝子を含むAxCAlacZ、と単純ヘルペスチミジンキナーゼ遺伝子を含むAxCAHSVtkを用いた。カチオニックリポソームとしてTMAG, DOPE, DLPCの3種の脂質を用いたSUVを使用した。腫瘍細胞株を培養しアデノウイルスベクターのみとカチオニックリポソーム包埋アデノウイルスベクターとの導入効率、抗腫瘍効果の比較およびアデノウイルス中和抗体存在下での遺伝子導入効率の検討を行った。 結果:AxCAlacZ/SUV複合体は、AxCAlacZ単独の遺伝子導入に比較して約5倍の遺伝子導入を示した。またAxCAHSVtk/SUV複合体は、AxCAHSVtk単独に比較して有意な殺細胞効果を認めた。中和抗体存在下では、AxCAlacZの感染は遺伝子導入を完全に妨げられたが、AxCAlacZ/SUV複合体の感染において約50%の遺伝子導入効率を認めた。 これらのことより、カチオニックリポソーム包埋アデノウイルスベクターが、ヒト口腔扁平上皮癌に対する遺伝子導入に対して有効であり、さらにアデノウイルスベクターの反復投与による抗腫瘍効果を得られることが示唆された。
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