研究概要 |
現在、様々なベクターが癌に対する遺伝子治療に用いられているが、より遺伝子導入効率が高く安全性に優れているベクターの開発が望まれる。アデノウイルスベクターは,様々な利点があるが免疫原生などの欠点もある。そこで、われわれは、カチオニックリポソーム包埋アデノウイルスベクターを作製し、ヒト口腔癌への基礎的研究を施行した。 ウイルスベクターは、βガラクトシダーゼ遺伝子を含むAxCAlacZ、と単純ヘルペスチミジンキナーゼ遺伝子を含むAxCAHS-tkを用いた。カチオニックリポソームとしてTMAG, DOPE, DLPCの3種の脂質を用いたSUVを使用した。In vitroにおいて10^6pfuのAdベクターと1μmolのSUVで作製したAxCAlacZ/SUV(10^6AxCAlacZ/SUV)の感染は、AxCAlacZ単独と比較して約5倍の遺伝子導入を示した。10^6AxCAHS-tk/SUVの感染は実験に用いた全てのヒト口腔癌細胞において、AxCAHS-tkの感染と比較して有意な殺細胞効果を示した。しかし、SCC-7細胞では有意な殺細胞効果を認めなかった。野生型C3H/HeマウスにSCC-7細胞を移植後、コントロール群(非治療)、AxCAHS-tk1回および3回感染群、AxCAHS-tk/SUV1回および3回感染群の5つの実験群を作製した。AxCAHS-tkおよびAxCAHS-tk/SUV感染1回につき10^6pfuのAdベクターを感染させ、さらに24時間後よりマウスに100mg/kgのGCVの腹腔内投与を4回施行した。なお、用いたAxCAHS-tk/SUVは10^6pfuのAdベクターと1μmolのSUVにて作製した。導入効率、抗腫瘍効果の比較検討を行った。AxCAlacZ/SUV複合体は、AxCAlacZ単独の遺伝子導入に比較して約5倍の遺伝子導入を示した。また、AxCAHSVtk/SUV複合体は、AxCAHSVtk単独に比較して有意な抗腫瘍効果を認めた。 これらのことより、カチオニックリポソーム包埋アデノウィルスベクターが、、ヒト口腔扁平上皮癌に対する遺伝子導入に対して有効であり、さらにアデノウイルスベクターの反復投与による抗腫瘍効果を得られることが示唆された。
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