研究概要 |
唾液腺の腺房細胞分化を誘導する因子の同定を研究した.本研究以前,マトリゲルが唾液腺HSG細胞を腺房細胞に分化誘導させることがわかっていた.本研究では,ラミニン1とインテグリンα4β1,α6β1が結合することにより,下流のSrc family tyrosine kinaseを介してシグナルが伝達され分化が誘導されることが明らかになった。このシグナルは2次元の培養条件では分化誘導されず,3次元の培養が必要不可欠であった.3次元培養においても他の細胞外マトリックス(フィブロネクチンやコラゲン)では腺房細胞分化は誘導されなかった.2次元と3次元の異なりは細胞のコロニー形態で,8-10個の細胞間が強固に接着したコロニーの形成の有無にあった.tight junctionを調べると,desmoplakin1/2,ZO-1,E-cadherinは変化なく,他の分子の関与が示唆された. 唾液腺腫瘍の1つである粘表皮癌の細胞株(TAK細胞)樹立に成功した.TAK細胞はcytokeratinの発現はないものの,vimentin,α-SMAの細胞骨格を有し,PAS陽性であった.唾液腺線癌細胞だけでなく,腺様嚢胞癌ACC細胞さらにTAK細胞も2次元培養ではラミニン1で増殖するが,3次元培養ではほとんど増殖が見られず,腺癌HSG細胞は腺房細胞に分化し,ACC細胞はアポトーシスが見られ,TAK細胞は管腔側導管細胞への分化誘導が見られた.これらの結果は,ラミニンゲルによる唾液腺腫瘍の分化誘導療法への可能性を示唆した.
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