腫瘍マーカ検出のため、患者の経時的な(治療前後、完全、再発)血清ならび口腔癌細胞株(同所性移植法にて頸部リンパ節転移性癌細胞株、非転移性癌細胞株)、ヒト原発癌組織、転移巣、正常と考えられる口腔粘膜組織におけるプロテオーム解析(二次元電気泳動、質量分析法)を行った。血清は上記方法では検出感度が悪いため、解析方法を検討する必要性があった。癌細胞株や組織での検出感度はほぼ問題なかった。ただし、原発巣の組織では、同一患者の検体においてでも、採取部位により発現が異なっていた。口腔癌の腫瘍マーカの有用性を考えると、原発巣は目に見える領域につき、転移の有無を検知できる腫瘍マーカが重要ではないかと考えられる。我々は上記方法やマイクロアレイ解析によって得られた結果より、転移関連候補分子として、ムチンや細胞骨格関連分子、転写因子、シグナル伝達分子、癌遺伝子を同定した。また、転移性癌細胞に発現が低い分子として、細胞骨格関連分子、免疫系に関与する分子、転写因子、細胞周期、アポトーシス関連分子、シグナル伝達分子を同定した。また未知の遺伝子も検出した。さらに、転移性癌細胞細胞株を使用した動物実験モデル系を用い、抗転移薬(エンドスタチン)がリンパ節転移を制御できることを明らかにし、その機構に血管内皮細胞増殖因子(VEGF)-Cと(VEGF)-Dが関与している可能性を見出し、エンドスタチン処理した癌細胞と未処理の癌細胞間との遺伝子発現の相違が転写因子やシグナル伝達分子に見られた。転移性癌細胞株の抽出たんぱく質や上記解析の結果から、腫瘍マーカとし重要と考えられる分子を混和したものを、二次元電気泳動(分子の種類によってはSDS法でも可能)し、血清にてウェスタンブロットする方法は検出感度がよく、症例は少ないが血清を用いた簡易型検出システムとして有用となる可能性が考えられた。
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