われわれは腫瘍マーカの検出の確立のために、癌患者の唾液と血清のタンパク質の解析を行った。唾液中のタンパク質も血清のタンパク質の解析も確かな定量的解析結果を得ることができなかった。これらの検体を用いた有効な検出方法について検討する必要性があった。われわれは唾液の検討には特有な分子の遺伝子の存在をRT-PCR法にて検出する方法がよいと考えた。血清の解析では特定の分子を泳動したウエスタンブロット法が有用であると考えた。 口腔癌の特性を考えると、目に早える領域につき、癌の存在よりも転移の有無や浸潤・転移能を有する細胞の検出が有用であると考えた。組織は検出する部位によって発現様式が異なっていたので、癌細胞株の性状の検討により転移に関連する分子の検討を行った。すなわち、同所性移植法にて浸潤・転移能に差がある舌癌細胞株のタンパク質の発現をiTRAQ法を用いてプロテオーム解析を行った。アミノ酸の配列より同定できたタンパク質は163個であり、高転移性癌細胞にて発現の高いタンパク質は29分子、発現が低いタンパク質は47分子同定できた。さらにこれらの癌細胞株に対し、54525個のアレイを用いたマイクロアレイ解析を行ったところ、高転移性癌細胞株に強発現する遺伝子は既知遺伝子が186分子、未知遺伝子が137分子であった。高転移性癌細胞株にて発現が非常に低い遺伝子は既知の遺伝子147分子、未知の遺伝子が241分子であった。また、高転移性癌細胞株を使用した動物実験モデル系を用い、抗転移薬(エンドスタチン)がリンパ節転移を抑制することを明らかにし、その機構に血管内皮細胞増殖因子VEGF-C、とVEGF-Dが関与している可能性があること、また、臨床の組織に近い状態とするために、heterogeneousな癌細胞の動物モデル系を作製し、高転移性癌細胞の増殖進展に癌修復遺伝子human Mut T homolog protein 1(hMTH1)のタンパク質が関与している可能性を見出した。これらの分子も有用な分子の可能性が考えられた。現在有用な分子の絞込みを行っている。これらの簡易型解析システムにより腫瘍マーカや創薬の開発に有用な情報を与えてくれる可能性が考えられた。
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