研究概要 |
本研究は、歯列咬合や舌機能の異常とともに構音障害を認める患児に対して、筆者らがこれまで行ってきた歯列咬合の形態分析および嚥下時舌背表面形状の動態解析に加えて彼らの音声分析を行い、治療の進行に伴って調音機能が変化していく過程を精査し、歯列咬合形態、咀嚼嚥下機能のみならず調音機能を含めた総合的な口腔機能の育成を目指すものである。 初年度である今年は、9月末日に音声分析装置を導入し、その操作に習熟するとともに、数名の開咬を有する乳歯列期と混合歯列初期の小児に、治療前の音声ファイルを作成した。無声歯茎摩擦音である【s】と無声歯茎破裂音である【t】に焦点をあて、【asa】と【ata】の各音節を録音した。彼らのサウンドスペクトログラム上にあらわれる【S】は、その不規則な模様が正常咬合の小児のそれに比較して弱々しく感じられた。また【t】は、縦の細い線の出現が少ないように思われた。次年度以降分析手法および被験者を増やし、また各音声分析の波形をそれぞれの調音時舌尖エコー画像と同期させて、両者の関連性を検討していく予定である。 一方、嚥下時舌背表面のエコー画像動態分析では、本研究の準備段階として行ってきた正常咬合者の発達過程について、10月下旬韓国で行われた第3回アジア小児歯科学会議にて発表した。被験者をIIA, IIIA, IIIC, IVAの4つのグループに分け、縦溝形成と挙上における運動量と経過時間を比較したところ、総運動時間は有意な変化はないものの、歯牙年齢の増加に伴い縦溝形成と維持時間が短くなり、挙上時間が長くなる傾向が認められた。また、IIA期の挙上速度が、他の3つの時期よりも有意に速いなど、乳歯列期と混合歯列期の移行期が臨床的に重要な時期であることが示唆された。
|