研究概要 |
本年度は、小児歯科外来に通院中の小児から、3歳から15歳までの嚥下時舌突出癖に伴い開咬や上下切歯の著しい唇側傾斜を有する小児(以下、開咬児とする)15名、臨床的正常咬合を有する小児(以下、正常咬合児)14名を選択し、無声歯茎摩擦音[s]、無声歯茎破裂音[t]有声歯茎鼻音[n]の含まれる短文を3回発音してもらい収録した。 音声波形をサウンドスペクトログラム、フォルマント推移の2種類の分析方法で重ねて表示し、サウンドスペクトログラムによるスペクトル特性、フォルマントの遷移および実験者の聞き取り確認によって検査子音を区別し、まず無声歯茎摩擦音[s]のフォルマント周波数(F1,F2,F4)を抽出した。このうち、F4は発育過程の異なる小児の声道の長さを反映していると仮定し、F1,F2の値をF4で除して各小児のF1,F2の相対値を求めた。 その結果、正常咬合児に比較して開咬児は、F1,F2ともに有意に高くなった。声道の共鳴であるフォルマント周波数分析は主に母音について行われており、F1は舌の高低によって変化し低舌母音では高く、F2は舌の前後によって変化し前舌音で高いとされている。無声歯茎摩擦音[s]についても同様に想定すると、開咬児のF1,F2がともに高かったことは、調音時の開咬児の舌端が、正常咬合児における歯茎との距離よりも少し離れて摩擦音よりむしろ接近音に、かつ、舌尖が声道の開放端に近づき歯茎音から歯間音化したものと推定された。 次年度は、無声歯茎破裂音[t]有声歯茎鼻音[n]についても分析を進めるとともに、開咬児の治療の進行につれてフォルマント周波数が変化していく様子を検討し、音声分析も含めた舌機能訓練プログラムの開発に着手したい。
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