研究概要 |
本研究は、歯列咬合異常とともに舌機能の発達過程に変異を示す小児の舌位と構音特性を明らかにし、口腔機能の総合的育成を意図するものである。開咬等を有する小児15名の発音(『花が咲いた』)を収録し、音声分析装置により臨床的正常咬合児14名の発音と比較した。音声波形をサウンドスペクトログラム、フォルマント推移の2種類の分析方法で重ねて表示し、無声歯茎摩擦音[s]のフォルマント周波数(F1,F2,F4)を抽出した。このうち、F4は発育過程の異なる小児の声道の長さを反映していると仮定し、F1,F2の値をF4で除して各小児のF1,F2の相対値を求めた。その結果、開咬児の無声歯茎摩擦音[s]のフォルマント周波数は、正常咬合児に比較してF1,F2ともに有意に高くなった。すなわち、調音時の開咬児の舌尖は、正常咬合児における歯茎との距離よりも少し離れて、摩擦音よりむしろ接近音に、かつ、声道の開放端に近づき、歯茎音から歯間音化したものと推定された。 また、超音波診断装置を中心とする舌運動解析システムにより、正常咬合児における嚥下時の舌背縦溝形成が発達していく過程を観察した。女児20名を歯年齢により4群に分類し、水嚥下時の舌運動をB+Mモードで解析した。その結果、舌背縦溝形成が成熟安定していく時期は、混合歯列前期と考えられた。さらに、安静時舌背部の平坦度ないし屈曲度を分析するために、咬合型別に分類した24名について、Bモード画像の矢状断舌背形状を近遠心的に4等分し、各隣接区間のタンジェント値の差を平均化したものをCTDと定義し、オーバーバイト量との相関関係を求めた。全ての症例において、嚥下時、安静時ともに有意な相関が認められ、かつ開咬群のCTDは叢生群に対して非常に小さいことから、安静時舌位が前歯部咬合関係に影響を与えていること、および開咬児の安静時舌背形状はおおむね平坦であることが示された。
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