口唇口蓋裂(CLP)患者は、その部位特異性のために咀嚼、嚥下などの口腔機能の中でも特に言語獲得に障害を受けやすい。口唇・歯槽部・歯列・硬口蓋・軟口蓋の広範囲に障害が及ぶと、感覚フィードバックが不十分となり正確な調音点の学習・獲得に支障を来たし代償性の異常調音を示す。また、この異常調音には、口唇や軟口蓋の実質欠損や筋走行の乱れに起因する発音関連筋活動の空間ならびに時系列パターンの変化が寄与する可能性が考えられる。そのため、CLP患者の言語機能を解明するためには、中枢・末梢の両面からのアプローチが必要となる。これまで我々は、大脳皮質一次感覚運動野(S1/M1)に注目し、裂型(片側性CLPや両側性CLPなど)などの末梢形態と発音時の脳賦活パターンについて、CLP患者の発音時におけるS1/M1賦活パタンの解析を試みてきた。その結果、構音器官に器質的異常を有するCLP患者では、発音時に何らかの補償機構が作動している可能性が示唆された。一方、CLP患者の言語機能に関する末梢における評価法の一つとして期待されている非侵襲的で放射線被曝がない形態計測法であるMRI動画記録法を用いて、開鼻声を認めない成人男性CLP患者の/pa/、/ta/および/ka/発音時の調音運動観測を行ない健常成人男性と比較解析した。その結果、CLP患者においては、健常成人と異なり、音を生成するために構音器官を巧みに駆使しているこどが観察できた。特に、舌や咽頭後壁の動きが顕著であった。これは、末梢器官において、軟口蓋の挙上不足による鼻咽腔閉鎖機能不全を舌や咽頭後壁の動きで代償し発音機能を維持していると推測され.る。今後は、末梢構音器官の代償性運動と呼応した中枢における代償性神経活動との関連を検討する予定である。
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