研究概要 |
う蝕原性細菌Streptococcus mutansにはその菌体表層に様々な構造物が存在し,その病原性に深く関与している.特に3種のグルカン合成酵素(GTF ; GTFB, GTFC, GTFD)および3種のグルカン結合タンパク(Gbp ; GbpA, GbpB, GbpC)は,S. mutansの主要な病原因子であるスクロース依存性平滑面付着に大きく関わっている.本研究においては,S. mutans MT8148株におけるこれらの欠失変異株とそれぞれの組み換えタンパクを作製し,そのスクロース依存性平滑面付着さらにはう蝕発生における役割を検討した.またS. mutansの血清学的特異性に関与する細胞壁多糖のその病原性発現への役割を,グルコース側鎖を欠失した変異株および臨床分離株で検討した.その結果,(1)3種のGTFのいずれが欠失してもS. mutansの平滑面付着能は有意に低下する.(2)3種のGTFのすべてが至適な比率で存在するとき,S. mutansの平滑面付着能は最大となる.(3)GbpAあるいはGbpCの欠落はS. mutansの平滑面付着能を有意に減弱させるだけでなく,う蝕誘発能も有意に低下させる.(4)S. mutansの菌体結合型グルカン結合タンパクであるGbpCは,GTFDが産生する水溶性グルカンと特異的に結合する.(4)細胞壁多糖におけるグルコース側鎖の欠失は,S. mutansの平滑面付着能にもう蝕誘発能にも大きな影響を与えないことが明らかとなった. 以上の結果は,S. mutans菌体表層タンパクが,そのスクロース依存性平滑面付着,さらにはう蝕発生に重要な役割を演じていることを示している.
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