研究概要 |
矯正治療期間を短縮するための効率的歯牙移動メカニクスを開発するため、まず上顎前歯舌側移動の効率化を達成する力系の解明を行った。治療目標位置への前歯歯根移動および歯軸傾斜を改善するための最適な力系を予測することを目的とし、磁気センサを応用した高精度三次元変位測定システムを用いて,上顎前突と診断された患者を対象として,種々の荷重位置において歯の初期動態を実測した。 スライディングメカニクスを用いて前歯の舌側移動を行うことを想定し、アーチワイヤーにパワーアームを取り付け、荷重位置をブラケット位置から2mm間隔で8カ所設定し,各フックにコイルスプリングを掛けることにより,前歯の舌側移動を行い,初期動態を解析した.得られた結果より、正中矢状面に投影された前歯の回転中心を算出し、荷重位置と前歯移動時の回転中心位置の関係を明らかにした。 生体変位測定法を用いて、種々の荷重条件下で上顎前歯の初期変位動態を解析した結果、アーチワイヤーに組み込まれた4mmのパワーアームから前歯を牽引する方法でアングルClass II div.1不正咬合の改善に推奨されるcontrolled tippingと呼ばれる制御された傾斜移動が達成されることが示唆された。また、8mmのパワーアームから前歯を牽引すると、アングルClass II div.2不正咬合の改善に推奨される切端を回転中心とした歯根移動が達成されることがわかった。このように、症例に応じて、前歯を目標位置へ最短距離で効率的に移動するための力系の条件が提示された。 現在、得られた結果を臨床にフィードバックし、実験結果の妥当性を検証しているところである。さらに、矯正用インプラントと組み合わせ、より効率的な前歯舌側移動メカニクスを確立する予定である。
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