研究概要 |
磁気センサを応用した高精度三次元変位測定システムを用いて,上顎前突と診断された患者を対象として,種々の荷重位置において歯の初期動態を実測し、種々の荷重条件下で上顎前歯の初期変位動態を解析した結果、アーチワイヤーに組み込まれた4mmのパワーアームから前歯を牽引する方法でアングルClass II div.1不正咬合の改善に推奨されるcontrolled tippingと呼ばれる制御された傾斜移動が達成されることが示唆された。また、8mmのパワーアームから前歯を牽引すると、アングルClass II div.2不正咬合の改善に推奨される切端を回転中心とした歯根移動が達成されることがわかった。 初期変位解析で求めた最適な荷重条件を用いて、矯正学的歯の移動を4〜6ヶ月間行った。この時、歯の移動前後の歯列の精密印象を採得し、模型を作製した。光学式三次元形状計測装置(SURFLACER VMD-25,ユニスン社)を用いて,治療前後に採取された歯列模型の三次元データを取り込み,移動前後の歯列模型間の重ね合わせを行うことにより,上顎前歯の移動動態を解析した.さらに、三次元データ解析ソフトウェア(SURFACER-PRM, Imageware社)を用い、歯列模型データの重ねあわせ法を用いた歯の移動量を算出し、移動動態の解析を行った.その結果、初期変位測定法により予測された歯の移動は、求められた最適荷重条件下での矯正治療によりほぼ達成されることがわかった。 矯正学的な歯の移動に伴い、前歯の傾斜移動の程度に応じて、力系がわずかに変化し、初期変位より予想された歯の移動動態にも影響することが示唆された。初期変位移動動態を補正することにより、矯正学的な歯の移動をより精度よく予測することが可能になると考えられた。 空隙閉鎖の過程で、力系の設定を補正することにより、一定の歯の移動形態を維持し、治療目標位置へ最短距離での歯牙移動を実現した.歯牙移動のモニタリングおよび再評価を定期的に繰り返し行った。矯正力による歯の移動動態をきわめて高い精度で解析することが可能となり,荷重条件と歯の変位動態の関係を明らかにすることにより,歯の移動予測,最適な矯正力系の設定が行えるようになった.多くの患者を対象に臨床データを蓄積し,evidenceにもとづいた効率的歯牙移動メカニクスが確立できたものと考えられる。
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