研究概要 |
歯周組織再生におけるエナメル基質タンパク質(EMD)の有効性に注目されているが、詳細な機構については不明である。我々は以前からヒト歯根膜由来細胞(HPLF)が産生するタンパク質(CMP)に細胞接着活性があることを認めていた。EMDとCMPを疎水性のdishにコーティングすると、HPLFが接着し、増殖を示すことから両タンパク質には疎水性のアミノ酸配列が示唆された。歯根膜の再生には歯槽骨から遊走した未分化の幹細胞は必須の因子であることから、本研究においてHPLFに加えてラット骨髄由来細胞(RBMC)を未分化間葉系細胞として用いた。 それぞれ25μg/mlのEMDとCMPを疎水性のdishに24時間、4℃でコーティングし、加熱処理をしたBSAでさらに処理後、HPLFとRBMCを播種し培養を行った。HPLFにおいて細胞接着活性(CASF活性測定)、DNA量の分析およびALPase活性を測定すると、EMDとCMP共に細胞の接着数は同じであるが、CMPによる細胞伸展が促進していた。しかし、インテグリンのβ1のmRNAの発現に変化はみられないが、β3のmRNAの発現が抑制された。また、ALPase活性においてCMPがEMDよりHPLFの分化促進が認められた。一方、EMDにサイトカイ活性があるかどうかは、培地添加してみるとHPLFとRBMCにDNA量とALPase活性に変化は認められなかった。 歯根膜に未分化幹細胞を想定したRBMCがEMDを足場とした状況で、RBMCの増殖、分化促進をALPase活性、さらにRT-PCR法によるALPase, osteopontin(OPN),骨に特異的な基質タンパク質であるbone sialoprotein, osteopontin(OPN)およびosteocalcin(OCN)のmRNAの発現を検討した。RBMCのALPase活性はCMPと比較してEMDによって2倍上昇し、ALPase mRNAのRT-PCRのデータからも、ALPase発現がEMDを足場として促進していた。さらに、BSPおよびOPNの発現はコントロールでも発現しているもののEMDとCMPによりさらに促進された。6日間の培養初期ではコントロールおよびCMPにおいてOCNは発現はほとんど認められないが、EMDで明らかにOCNの発現が認められた。一方、RBMCを遊走させる因子はEMDには全く認められず、CMPとHPLFの培養上清に強い遊走活性が認められた。 以上のことから、1)EMDにHPLFが接着し、HPLFの増殖と分化が促進され、2)分化促進されたHPLFからRBMCを遊走する因子が分泌され、3)遊走したRBMCがEMDに接着し、4)EMDを足場とし、またHPLFと直接接触することにより、5)ALPaseの発現上昇、さらに骨に特異的なBSPおよびOCNの産生を促進しRBMCは骨系細胞へ分化する。従って、EMDは歯周組織の再生ばかりか治癒過程において有効な足場となることが示唆された。
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