近年、HIV-1Tat由来の塩基性ペプチドが効率的に細胞膜を透過することが明らかとなり、これをキャリアとして、様々なタンパク質が細胞内に容易に導入出来ることが報告されている。我々は、TatペプチドのみならずArg(アルギニン)残基に富む多くのペプチドが細胞膜透過能とキャリア能を有することを明らかにするとともに、直鎖型のみならず分岐型ペプチドも細胞透過性を示すことを明らかした。さらに、分岐の違いにより細胞内局在が異なる可能性も見出した。TatをはじめとしたHIVのRNA配列に結合するArgに富むペプチドを用いてRNA分解酵素を細胞内に導入したところ、HIVの増殖阻害活性を示したことから、これらが細胞内のHIVのRNAを認識して切断したことが示唆された。転写因子NF-κBの活性化に関与する蛋白質I-κBのリン酸化部位、およびユビキチル化部位に対応するペプチドを合成し、アルギニンペプチドと結合させ、細胞内に導入したところ、NF-κBの活性化を阻害できることが分かった。しかし、阻害の程度は場合によって大きく異なり、この原因に関して現在検討を加えている。また、転写因子Sp1のDNA認識部位に対するペプチドを細胞内に導入し、Sp1認識部位を有するレポーター遺伝子において転写が阻害できることも見出した。細胞外から加えた分子により細胞内の分子が認識できることが明らかとなったことから、アミノ基と反応しうる修飾団としてアルデヒド基、光により細胞内タンパク質を修飾可能なアジド基の利用を考えた。しかし、これらの架橋効率は満足できるものではなかったので、スクシンイミドなどのより反応性の高い修飾団の利用を試みたが、逆にその反応性の高さから、これらを導入した分子を安定に単離することが困難であった。現在、これらを解決するような修飾団と導入条件に関して更に検討を加えている。
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