研究概要 |
生体での防御と応答に関わる蛋白質の三次元構造の詳細を,X線回折結晶学を用いる構造生物学的なアプローチによって解明するため,蛋白質試料を大量に調製して結晶化し,構造情報を得るための研究を進めた。 3年次計画の第2年度として,結晶析出の妨げとなる糖鎖の均一化や各種クロマトグラフィー操作などにより,高純度の結晶化用の試料を調製した。リソソーム病に関わるヒトβ-ガラクトシダーゼ,黄色ブドウ球菌の薬剤耐性の伝播に関わるカセットリコンビナーゼ酵素3種,細菌感染の防御に関わる自然免疫系のMD-2蛋白質などの大量発現系と高純度精製系を構築した。 自然免疫系のToll-like受容体(TLR)と相互作用し,細菌のリポ多糖を識別するMD-2蛋白質については,ヒトとマウスのMD-2を発現させ,精製と性状の解析を行った。TLRの発現にも着手した。 細胞膜貫通型ヒトアドレナリン受容体に関しては,酵母での発現ベクターにおいて用いるレア遺伝子コドンの改良により,発現レベルを数倍に高めた。 血液凝固系の蛋白質である組織因子の細胞外ドメインを大腸菌に発現させ,また,これと強固に結合する抗体の抗原結合部位Fabを調製した。これらの複合体の結晶の解析にも成功した。こうして得た構造知見に基づいて,組織因子に結合し,血液凝固を阻害する低分子リガンドの設計を行った。 さらに,プロテインスプライシングの反応機構を,改変体蛋白質の結晶構造解析により明らかにした。リソソーム酵素のヒトα-ガラクトサミニダーゼについては,結晶性の改良を引き続き行った。サルモネラ菌の病原性DPS様蛋白質に関して,8量体と12量体のサブユニット構造を示唆する2種類の結晶を得た。このうち,12量体サブユニットの結晶の構造を得ることができた。
|