研究概要 |
有機物の燃焼に伴って大気中に放出される多環芳香族炭化水素(PAH)の中には,発ガン性/変異原性を示すものがあるが、さらにエストロゲン様/抗エストロゲン活性または抗アンドロゲン活性を示すものも明らかになった。PAHがエストロゲン様または抗エストロゲン活性を誘発するための経路の一つとして,体内組織中のcytochrome P450によって生成したPAHの代謝物が直接ヒトエストロゲン受容体(hER)にアゴニストあるいはアンタゴニストとして結合することによって各活性を発現することが考えられる。そこで,本研究では環境中濃度が高い2〜6環構造を有するPAH16種類及びその代謝物(モノヒドロキシ体;OHPAH)60余種類について,酵母two-hybrid法を用いてhERを介するエストロゲン様及び抗エストロゲン活性を評価した。その結果,まずPAHにはいずれの活性も観察されなかったが,OHPAHの中にエストロゲン様または抗エストロゲン活性を有するものがあることを初めて見出した。そして,いずれの作用も4環構造のOHPAHの中に強いものがあり,その中でも4-ヒドロキシベンツ[a]アントラセンが最も強いエストロゲン様活性を,3-ヒドロキシベンゾ[c]フェナンスレンが最も強い抗エストロゲン活性を示すことを明らかにした。そこで,分子モデリングソフトを用いたコンピューターシミュレーション解析を行い,OHPAHの環数と母核構造,水酸基の位置と部分電荷,イオン化エネルギーなどの物理化学的特性がhERへの結合と活性発現に深く関わっていることがわかった。次に,蛍光検出逆相HPLCによるOHPAHの分析法を開発して適用した結果,CYP1A1処理により,活性の強い4-ヒドロキシベンツ[a]アントラセンなどが生成することが明らかになった。また,ヒト尿のβ-グルクロニダーゼ処理液中からピレン,フェナントレン,ナフタレンなどの水酸化体が分析でき,PAH曝露評価法として有用なことがわかった。
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