マルチ亜鉛フィンガーの存在意義は、細胞が限られた転滋因子をさまざまな順序で組合わせることによって、膨大な裏の遺伝子発現のスイッチを調節していることと深く関係していると考えられるが、未だこの点は不明である。そこで、3〜15個の亜鉛フィンガーモチーフを持つ天然および人工マルチ亜鉛フィンガー蛋白質を単離又は創製し、これらを用いて、種々の塩基配列の異なるDNAやRNAとの相互作用を電気泳動、ビワコア、CD、NMR、蛍光法等を駆使して、DNA/RNA認識におけるマルチ亜鉛フィンガーの順列や数の変化を追究した。即ち、亜鉛フィンガー蛋白質の核酸結合は、そのレパートリーの中から順列や数を変えて用いることによって遺伝子発現を調節し、このことによって1つのマルチ亜鉛フィンガー蛋白質が幾つもの転滋蛋白質を用いるのと同じ役割を演じて、それぞれ腹個の転滋因子を用意する手間を節約していることが暗示された。また、個々の亜鉛フィンガーは柔軟な連結部でつながれ、それぞれ独立した"読み取りヘッド"として機能しているように推定されているが、マルチ亜鉛フィンガーの存在は、DNA認識における相補性・共同性によって、核酸結合の親和性や選択性の上昇に大きく寄与している可能性が指摘された。今後、それぞれの亜鉛フィンガーがどのような塩基配列のDNAと結合するのかを明らかに出来れば、選定された配列に対して特異的に結合する亜鉛フィンガー蛋白質の合成に大きな道を開くことが期待され、単に遺伝子発現の研究ばかりでなく医療の進歩においても貢献し得ると考えられる。
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