マルチ亜鉛フィンガーの存在意義は、細胞が限られた転写因子をさまざまな順序で組合わせることによって、膨大な量の遺伝子発現のスイッチを調節していることと深く関係していると考えられるが、未だこの点は不明である。そこで、転写因子Sp1由来の3つの亜鉛フィンガーを1ユニットとして、ユニット同志を遺伝子工学的手法を用いて連結させることにより、15個の亜鉛フィンガーを有する新規タンパク質を精製・単離した。ユニット間のリンカー部分には多くの亜鉛フィンガーのリンカー領域に保存されているアミノ酸配列(TGEKP)を採用したが、リンカー配列の影響を検討するため転写因子TFIIIAタイプのリンカーを有する15-亜鉛フィンガータンパク質も創製した。これら新規マルチ亜鉛フィンガータンパク質のDNA結合性を詳細に調べるためGC配列に富んだDNAを新たに調整し、ゲルシフト法・フットプリント法などを駆使した。その結果、45塩基対にも及ぶ5個の連続したGCボックスに特異的に結合できることが判明した。また、GCボックス内にATミスマッチを導入したDNAに対する結合性についても検討した。さらに、円偏光二色性分光法を用いて新規マルチ亜鉛フィンガータンパク質の2次構造やフォールディングに関する知見を得た。このような実験結果から、DNA認識におけるマルチ亜鉛フィンガーの順列や数の変化について考察し、転写反応におけるマルチ亜鉛フィンガータンパク質の存在意義・生物学的意義に対して重要な情報を得つつある。
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