研究課題
基盤研究(B)
ステロイドホルモン等の様々な脂溶性生理活性物質の作用を仲介する核内レセプターは、薬剤のターゲット分子としてだけではなく、内分泌撹乱作用などの毒性発現の観点からも注目されている。最近のゲノムプロジェクトの成果として、ヒトにはリガンド未同定のオーファンレセプターも含めて48種類の核内レセプターが存在すると言われている。これらのレセプターは、そのほとんどが生物の発生や分化、恒常性の維持に重要な役割を果たしていることから、潜在的にはすべて内分泌撹乱物質の標的分子と考えられる。その為、化学物質の内分泌撹乱性を予測するためには、これらすべてのレセプターへの結合性を調べる必要があるが、これまでの方法論では難しかった。そこで、本研究では、簡便・迅速で経済性に優れたハイスループット型核内レセプターリガンド検出系を開発し、それを用いて内分泌撹乱作用が疑われている化学物質について、多種類の核内レセプターへの結合性を網羅的に調べた。その結果、ノニルフェノール等のアルキルフェノール類は、これまで知られているエストロゲンレセプターへの影響に加えて、レチノイン酸レセプターにも影響を及ぼすことや多くの化学物質が複数のレセプターに活性を示し、内分泌撹乱物質の作用点が一つではないことを明らかにした。また、有機スズ化合物はレチノイドXレセプター(RXR)やペルオキシソーム増殖剤活性化レセプター(PPAR)に非常に低濃度からアゴニスト作用を示すことが分かった。有機スズ化合物は、かつて船底塗料や魚網防汚剤として大量に使用され、その海洋汚染により海産性巻貝類にインポセックス(雌の雄性化現象)を起こしているとして問題になっている化合物である。これまで、巻貝類のインポセックス誘導メカニズムは長く不明であったが、我々は海産性巻貝の一種であるイボニシからRXRホモログを単離し、有機スズ化合物がイボニシRXRにも結合すること、RXRの内因性リガンドである9-cis retinoic acidがメスのイボニシを雄性化させる事を示し、有機スズ化合物によるインポセックス誘導機構を明らかにした。
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