ヒト染色体転座t(11;22)(q23;q11)は、現在までに知られている中での、唯一の反復性非Robertsonian転座である。本研究代表者はすでにt(11;22)の11番染色体側の切断点をクローン化し、切断点にはpalindromic AT rich repeat (PATRR)と呼ばれるAT含量の多い回文配列が存在することを報告し、それが生理的な条件で十字架構造DNAの立体構造をとるためゲノムが不安定になることが本染色体転座の原因であることを提唱している。また、代表者は、健常人から得た精子を材料として転座特異的PCRを用いた実験によって、ヒト生殖細胞において新生t(11;22)が高頻度に存在することを報告した。同時に、健常人のリンパ球や線維芽細胞ではPCRが陰性で、この転座が減数分裂時においてのみ発生することを証明し、報告した。この2年間の研究で研究代表者は、新たにt(17;22)を伴い神経線維腫症1型(NF1)を呈する複数の患者の転座切断点を解析し、t(11;22)と同じ22番染色体のPATRRと、17番染色体のNF1遺伝子内のPATRRとの間で生じた均衡転座であることを証明した(Am J Hum Genet 2003)。その後、海外から複数のグループからもPATRRによる染色体転座の報告が相次ぎ、本メカニズムの普遍性が示されるとともに、この分野でのトピックスのひとつとなっている。また、代表者は、すでにクローン化した11番染色体のPATRRが実際に十字架型の不安定な高次構造をとることを、2次元アガロースゲル電気泳動、S1ヌクレアーゼやT7エンドヌクレアーゼに対する感受性試験、抗十字架型DNA抗体を用いたゲルシフト法、原子間力顕微鏡などを用いて証明した(論文投稿中)。現在、大腸菌や酵母を用いたPATRRによるゲノム不安定化の解析実験系を構築中である。
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