研究概要 |
PCSは、1998年に我が国で報告された新しい高発癌性遺伝病であり、初めてのヒト紡錘体チェックポイント欠損症である。患者由来線維芽細胞は、染色体分析で全染色体の姉妹染色分体が高頻度に解離したpremature chromatid separatio(PCS)の所見を示す。臨床的には、発育不全、重度の小頭症、Dandy-Walker奇形など中枢神経系の異常とWilms腫瘍の合併を特徴とする。今年度の研究で我々は、紡錘体チェックポイント蛋白であるBUBR1,APC2,BUB3,P55CDC,MAD2,CENPE蛋白について、シークエンス法で変異の有無を検索し、ウエスタンブロット法で発現レベルを解析した。いずれの遺伝子も変異が見られず、ウエスタンブロットにおいても、正常細胞と患者細胞とで発現の違いを認めなかった。このことから、PCSは新規の遺伝子が原因であることが考えられた。患者線維芽細胞株を、アフィディコリンを用いて細胞周期のM期に同調し、蛋白を抽出して、免疫沈降法でp55cdcとMAD2との結合について解析した。その結果、患者細胞は正常細胞と同程度に両タンパクが会合することが確認され、紡錘体チェックポイントシグナル経路のうち、MAD2までの過程は正常に機能していることが考えられた。現在、患者細胞株に正常ヒト染色体を微小核移入法で導入し、各染色体移入クローンについてコルセミド処理後のmitotic indexを調べることで、原因染色体の検索を進めている。
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