研究概要 |
染色分体早期解離症候群(PCS syndrome)は先天性M期紡錘体形成チェックポイント欠損症である。出生直後から重度小頭症と発育遅滞、小脳虫部の低形成を伴うDandy-Walker奇形、乏しい脳回などを示し、生後数ヶ月から難治性けいれんを発症して、ほぼ全例がWilms腫瘍と横紋筋肉腫を発症する。我々はPCS患者細胞におけるM期紡錘体チェックポイント異常の分子機構を解明することを目的に、キネトコア蛋白および紡錘体チェックポイント蛋白の発現と細胞内局在をウエスタンブロット法および免疫染色法で解析し、以下の点を明らかにした。 (1)PCS症候群患者細胞は既知の紡錘体チェックポイント蛋白(MAD2、BubR1、p55cdc、BUB3)のうち、唯一BubR1のみ発現量が低下していることが明らかとなった。(2)PCS症候群患者細胞株で、種々のM期チェックポイント蛋白(Mad2,Bub1,BubR1,CENP-E,p55cdc)およびセントロメア蛋白(CENP-B,-C,-F,-E)の細胞内局在を免疫染色法で解析したところ、BubR1とp55cdcのキネトコアシグナルがほぼ消失していることを見いだした。(3)PCS細胞株にBubR1遺伝子が存在するヒト15番染色体を移入すると、BubR1とp55cdcのキネトコアへの集積ならびに紡錘体形成チェックボイント異常が正常化した。(4)BubR1遺伝子を含めた種々の紡錘体形成チェックポイント遺伝子についてPCS患者細胞で変異の有無を検索したが、いずれも異常が見られなかった。 以上より、PCS症候群細胞では、BubR1からp55cdcへのM期紡錘体チェックポイントの最終経路に機能異常があり、この経路に関わる未知の因子が欠損している可能性が考えられた。
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