PCS(染色分体早期解離)症候群は梶井らが初めて報告した新しい染色体不安定症候群で、ヒトの先天性M期紡錘体形成チェックポイント異常症である。患者細胞は姉妹染色分体が高頻度に解離した染色分体早期解離と多彩な異数性モザイクを特徴とする。罹患患者は重度小頭症・発達遅滞・Dandy-Walker奇形・Wilms腫瘍合併を示す。私たちはPCS患者細胞株の機能解折を行って、PCS症候群のM期紡錘体形成チェックポイント異常はBubR1タンパクの発現低下が原因である可能性を見いだした。一方、ごく最近Hanksらは、本疾患に類似したMVA症候群患者にBubR1遺伝子変異を同定した。そこで私たちはPCS症候群7例についてBubR1遺伝子の変異解析を行った。その結果、7例すべてにBubR1の変異を同定した(一塩基欠失によるフレームシフト変異、スプライス変異および-アミノ酸置換)。しかしながらいずれもヘテロな変異であり、7例とも片側のアレルに変異は検出されなかった。そこでBubR1遺伝子近傍のハプロタイプ解析を行ったところ、変異の検出されないアレルは7例に共通のハプロタイプを示すことがわかった。またウエスタンブロット解析を行ったところ、変異の検出されないアレルからのBubR1蛋白発現量は低下していることがわかった。以上の結果から、PCS症候群はBubR1の発現低下(正常レベルの50%以下)が原因であることが証明された。
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