染色分体早期解離(PCS)症候群は我が国で発見された染色体不安定症候群で、患児細胞は染色分体早期解離と多彩な異数体モザイクを示す。これまでに日本人9家系13症例が報告され、日本人患児13例全例が重度小頭症と発育遅滞、小脳虫部の低形成を伴うDandy-Walker奇形などを示し、全例が生後数ヶ月から難治性けいれんを発症した。本研究の目的は、PCS患者細胞におけるM期紡錘体チェックポイント異常の分子機構を解明し、細胞周期制御の破綻による腫瘍化のメカニズムを明らかにすることである。以下の諸点を明らかにした。 1)3例のPCS患者から皮膚線維芽細胞を採取して不死化細胞株を樹立した。 2)種々のM期チェックポイント蛋白およびセントロメア蛋白の細胞内局在を免疫染色法で解析して、BubR1とp55cdcのキネトコアシグナルがほぼ消失していることを明らかにした。 3)PCS細胞株にBUB1B遺伝子が存在する15番染色体を移入すると、BubR1とp55cdcのキネトコアへの集積および紡錘体チェックポイントが正常化した。 4)PCS患者サンプルでBUB1B遺伝子解析を行った。7家系中4家系に同一の一塩基欠失を、3家系にそれぞれスプライス変異、ナンセンス変異、ミスセンス変異を同定した。一方、同定された7家系の変異はすべてヘテロ接合であり、反対側のアレルに変異は検出されなかった。 5)7家系の変異が検出されないBUB1Bアレルはほぼ共通したハプロタイプを示し、BubR1タンパク発現量が低下していることを見いだした。以上の所見から、PCS症候群はBubR1発現量の50%以上の低下が原因であることが明らかとなった。
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