本研究では、明暗周期(明期7:00-19:00)条件下で9:00-17:00の間のみエサを与え、マウスの体温や種々のホルモン分泌などの日周リズムに関し周期性を保ったまま、位相(日周リズムのpeak及びtrough時刻)を変容させる時間制限摂食(TRF)下で飼育したマウスを対象とした。自由摂食(ALF)下では、塩酸イリノテカン(CPT-11)の毒性が5:00に重篤、17:00に軽度となったため、投薬時刻を5:00及び17:00とした。TRF群では、17:00投薬群と比較し5:00投薬群で有意に体重減少及び白血球減少を軽減できることが明らかとなった。ALF群と比較しTRF群では、約12時間毒性発現の位相のシフトが確認され、両群とも副作用がマウスの活動期において重篤となることで一致していた。本研究より、生活環境の変化に伴いCPT-11の時間毒性は変容し、これらの変容に伴い日周リズムがシフトする因子がCPT-11の毒性発現規定因子となる可能性が考えられる。これら毒性発現の機序を薬物動態学的および薬力学的側面より検討した結果、ALF群では副作用の日内変動と薬物動態およびTopoisomerase-I活性の日周リズムの関与が認められたが、TRF群ではこれらの関与は認められなかった。しかし、両群共に骨髄細胞の細胞周期の日周リズムと骨髄抑制の日周リズムには対応が認められた。従って、CPT-11の時間治療における投薬タイミング規定因子の一候補として骨髄細胞の細胞周期を選定した。また、白血球と骨髄細胞の細胞周期の日周リズムには対応が認められ、白血球は頻回採取が不可能な骨髄細胞に代わる代替生体リズムマーカーとして利用できる可能性が示唆された。 また、CPT-11以外にも種々の薬剤で投薬タイミングの違いによる効果および副作用への影響を評価した。投薬タイミングを規定する候補因子は各薬剤において個々に異なった。以上より、一元的な生体リズムマーカーによって投与設計を行うのではなく、個々の薬剤の治療目的に対し柔軟に生体リズムマーカーを選択し投与設計を行う必要性があることが明らかとなった。
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