研究概要 |
免疫抑制薬、cyclosporine A (CsA) およびtaclolimus (TCL) は、移植医療に不可欠な薬剤である。しかし、免疫抑制薬治療の問題点として腎、肝や中枢性有害作用の発現がある。免疫抑制薬による中枢毒性回避法の設計に着手するために、その発現機序を解明し、本薬物の中枢毒性発現に関する易発症因子とその関連遺伝子を明らかにすることを計画した。 (1)CsAは、γ-aminobutyric acid (GABA)受容体拮抗薬によるマウスの痙攣を増大し、これは一酸化窒素(NO)合成酵素阻害薬により抑制された。CsAは、ラット背側海馬のNO産生を用量依存的に上昇させた。これらの結果は、CsAが海馬のNO産生を促進し、GABA神経系との相互作用を介して痙攣を誘発することを示唆する。(Life Sciences 72:549-556,2002) (2)CsAを卵巣摘出ラットに連続投与すると、GABA_A受容体興奮薬の受容体結合量が減少した。この作用は、偽手術ラットやestradiolを処置した卵巣摘出ラットでは認められなかった。従って、更年期女性では、CsAによるGABA神経伝達の阻害作用が増強され痙攣発現の危険性が高い可能性がある。(Life Sciences 72:425-430,2002) (3)肝移植患者17名においてCsAやTCLの脳排出輸送機構であるP-糖蛋白質をコードする遺伝子を解析した。その結果、exon 21領域のG2677[A, T]の変異が、TCLによる中枢毒性発現と関連性があることがわかった。(Transplantation 74:571-578,2002) 以上、NO産生上昇やGABA神経伝達低下を誘発し易い病態やP-糖蛋白質関連遺伝子の変異を有する患者では、免疫抑制薬による中枢毒性が発現する危険性が高い可能性が示唆された。
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