研究概要 |
1.目的 プリオン病の早期診断法確立のために、感染から発症に伴うマーカー分子を同定する。 2.方法 正常型プリオンを大量発現するように操作したマウス神経培養細胞株(N2a58)とそれに変異型プリオンを感染させた細胞(N2a/Fukuoka-1)の無血清培地24時間培養上清をTCA沈殿法で濃縮した試料、および変異型プリオン(Fukuoka-1株)を脳室内注入したddYマウスから経時的に採取した血清サンプル等を2次元電気泳動で分析し、画像解析によりプリオン感染で変動するタンパク質スポットの同定を行った。候補となるスポットからトリプシン消化したペプチド断片を溶出して質量分析計にかけ、得られたスペクトル情報と合致するタンパク質をデータベースの中から同定した。 3.結果と考察 2次元電気泳動ゲルの比較により、分子量60,000前後の領域にpH4-5の範囲に渡って連続したスポットを与えるタンパク質集団、およびpH7付近の分子量14,000のタンパク質がN2a/Fukuoka-1の培養上清で特異的に増大していることが判った。質量分析の結果、これらはいずれもウシ血清タンパク質であることが判明した。培養液の交換に際しては十分な洗浄操作を施したことから考えると、感染によって細胞膜に何らかの変化が起こり、血清タンパク質を保持しやすくなった可能性が挙げられる。血清サンプルにおいては、変異型プリオンに非感染のマウスから得たコントロールに見いだされる単一のスポットが、感染後4週から2つに分かれ、週齢が進むにつれて消失していく傾向が観察された。質量分析計による解析から、これらのスポットには血液凝固系の調節因子が含まれていることが示唆された。この生理的意義については今後の解析を待たなければいけない。
|