研究概要 |
本尺度はカナダの看護師によって開発されAbilities Assessment Instrument(略してAAI)と呼ぶ。AAIは痴呆症研究における「出来ないことを診る」という従来の発想から飛躍して、「何が出来るか、能力が備わっているにもかかわらず認知障害のため明らかにされていない潜在能力は何か」という、プラス思考に基づいているのが特徴である。AAI原版の著者および出版社の許可を得て和訳(山下美根子監訳、痴呆症能力を高めるケア、医学書院、2002、174ページ)した日本語版を用いて、老人施設の痴呆症高齢者を対象に測定した結果を基に、AAI日本語版の信頼性および妥当性の検定を行った。延べ50人の高齢者について測定を行った。一人の対象者を測定する平均所要時間は30分(範囲30分〜55分)であった。 文化の違いのため不適切と思われた質問項目を削除した上で検証した結果、本尺度日本語版の信頼性および妥当性についての統計分析を行った。信頼性と長谷川式簡易知能評価スケールとの並存的妥当性については0.7という結果が得られた。一方妥当性を検討するため因子分析については対象者の数が十分でなかったことから再度検証の余地がある。これまで老人施設において本尺度を用いて対象者の測定を行った結果、その都度本尺度の修正が必要とみなされ修正を繰り返してきたため、因子分析を行うための必要な有効回答数が低下した。さらに原版は質問項目の回答が2,3,4,5というさまざまな段階のリッカート法から成り立っているため、小集計や全体集計の処理上困難をきわめた。この一貫性に欠けたスコアリング法の統一を図るためにかなりの修正を要した。その結果リッカート法4段階を一貫して使用する修正版を作成した。語彙、表現、さらに集計法も含めて現時点において日本語版「痴呆症高齢者の残存能力測定尺度」は一応整合されたものとなった。これからはこの整合性のとれた修正日本語版を用いて対象者の数をさらに増加して再検討することで本尺度の構造がより明確になると考える。再度妥当性が検証された次の時点で看護介入としての方向性を打ち出したい。
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