研究課題
本研究は、病院や施設での日常的な看護場面において看護者が患者に触れる行為、すなわちタッチの現象を看護援助の文脈から切り離すことなく記述し、そのタイプと意味を明らかにすること、さらにタッチを行う看護者の意図性と患者の受けとめの観点から、特に熟練看護師の看護実践に固有の身体知の探求を行うこと、この2点を目的として実施された研究である。神戸および札幌に設置されている総合病院2施設・総合病院内の緩和ケア病棟・老人施設の合計4施設におけるデータ収集の結果、日常的な看護場面において看護師は[関係を結ぶ][注意をひきつける][観察に伴う][ケア・処置遂行に伴う][安楽をもたらす][補い・導く][保護し備える][気持ちを通わせあう]という8タイプのタッチを使用していた。カナダのBotorrof(1993)やEstabrooks(1989)の先行研究結果と比較してみると、本研究結果の[関係を結ぶ][注意をひきつける][気持ちを通わせあう]タッチが先行研究のConnecting touchおよびSocial touch(Bototrff)、Caring touch(Estabrooks)、[観察に伴う][ケア・処置遂行に伴う]タッチがWorking touch(Botorrof)、Task-oriented touch(Estabrooks)、[安楽をもたらす]タッチがComforting touch(Botorrof)、Caring touch(Estabrooks)、[補い・導く][保護し備える]タッチがOrienting touch(Botorrof)、Task-oriented touchおよびProtective touch(Estabrooks)とかなり一致すると推察できた。本研究から示唆されることは、わが国におけるタッチのタイプが先行研究の結果にかなり似通っているということ、そして日本語の微妙なニュアンスの違いの所以か、8つという細分化したタッチのタイプが認められたということである。さらにエキスパートと呼ばれる熟練看護師についての観察では、熟練看護師は患者やケアにおいてこれから行われることの全体がイメージできており、そのことは患者に対する適切な説明や言動等に表れていた。熟練看護師のタッチでは無駄な試行錯誤や無意味な声かけなどがなく、起こってくる事象を知り抜いた的確な行為、また先のことを見こして全体を見渡した上での余裕・確信を持った言動が特徴であり、一つ一つの判断の根拠には数多くの経験に裏打ちされた身体知・経験知があるということが示唆された。
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