研究概要 |
本研究は^1H-MRS法により運動が高齢者における骨格筋の筋細胞内・外脂肪量に与える影響について検討した。対象となった高齢者は男女6名(男1,女5)で,年齢は75.5±6.7才(平均±標準偏差)であった。身体特性は、BMIが23.4±3.2kg/m^2、%FATが32.4±7.1%であった。対象者は同じ軽費老人ホームに居住し、週3日30分以上のマイペースによる歩行を10週間実施した。尚、歩行は安全面の配慮と運動の効果を高めるためにストックを使用した歩行運動(ストック歩行)を実施した。筋内脂肪量(細胞内・外)の測定には^1H-MRS法を用い、前脛骨筋(TA)、ヒラメ筋(SOL)、内側腓腹筋(MG)を被験筋として運動開始10週間前・後の値について比較検討した。また、採血により得られた血液成分(HDL・LDL・VLDLコレステロール)についても分析した。 TAの筋細胞内脂肪量(IMCL)は運動前の値が3.6±0.8(mmol/kg wet weight)で、運動後の値は3.2±1.4であった。SOLは運動前の値が9.7±3.4(mmol/kg wet weight)で、運動後の値は10.9±3.7であった。MGは運動前の値が6.3±3.5(mmol/kg wet weight)で、運動後の値は10.5±6.4であった。運動前・後の値を比較して、すべての筋肉において有意な差は認められなかった。しかしながら、TAの筋細胞外脂肪量(EMCL)は運動前の値(10.4±5.5mmol/kg wet weight)に比して、運動後の値は6.3±4.8であった。MGは運動前の値(9.7±3.4(mmol/kg wet weight)であったのに対して、運動後の値は10.9±3.7であった。TAとMGにおける運動後のEMCLは運動前の値と比較して有意に低下した。SOLの値は運動前の値が27.3±11.0(mmol/kg wet weight)で、運動後の値は20.5±13.5であったが、有意な差は認められなかった。血液s成分についてみると、HDLコレステロールの値が運動後に著しく増加しており、歩行運動の効果が認められた。また、VLDLコレステロールとLDL/HDLの減少が認められた。以上のことから、ストック歩行は虚弱高齢者の骨格筋における脂肪を運動のエネルギーとして筋内脂肪を消費し、筋肉の減弱を防ぐほか、生活習慣病予防にも有効性が示唆された。
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