研究概要 |
オレキシンは視床下部外側野に特異的に発現する神経ペプチドで、1998年に共同研究者の櫻井らによって発見された。オレキシンの機能不全はナルコレプシーを引き起し、カタプレキシーという姿勢維持筋のトヌスの低下が起こり、姿勢維持ができなくなる現象が見られる。この時、姿勢維持筋の持続的な収縮の維持に貢献する脳幹の青斑核にあるノルアドレナリンニューロンの発火は停止することが分かっている。また、青斑核に外因性オレキシンを投与すると筋トヌスが高まることが分かっている。本研究では、姿勢維持筋(抗重力筋)を支配する脊髄α運動ニューロンの発火をコントロールしている脳幹の青斑核を介して、オレキシンがその筋のトヌスや形質の維持に貢献しているかどうかを明らかにすることを目的とした。オレキシン前駆体であるプレプロオレキシン遺伝子を欠損したノックアウト(KO)マウスとプレプロオレキシンを成長過程で脱落させるorexin/ataxin-3トランスジェニック(Tg)マウスを素材とし、下肢骨格筋の形質を調べた。KOマウスでは、その野生型マウスに比べて下肢骨格筋の体重に対する相対重量が低下した.特に,抗重力筋であるヒラメ筋ではその萎縮は3割にも達した。ヒラメ筋の筋線維組成およびミオシン重鎖組成をみると,わずかながら遅筋線維型が速筋線維型よりも多くなっていた。この遅筋化は,他の下肢骨格筋ではみられず,ヒラメ筋特異的であった.一方、Tgマウスのヒラメ筋の相対重量は、オレキシンニューロンが完全に消失する12-15週齢以降から、野生型マウスのヒラメ筋相対重量に比べて有意に低下していくことが観察された。しかし、筋線維組成およびミオシン重鎖組成には遺伝子型による違いは見られなかった。本研究の結果から、内因性オレキシンがマウスの骨格筋、特に抗重力筋であるヒラメ筋の形質維持に関与している可能性が示された。
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