研究概要 |
成長期の適切な運動は,さまざまな身体機能の基盤を形成するばかりでなく,その後の生涯にわたりそれらを定着させる上でも重要と考えられる。我々は,マウス骨格筋において,筋線維の増殖を抑制する成長因子ミオスタチンの発現が,成長期(0〜9週齢)に低下すること,力学的刺激により一過的に低下すること,などを見いだした。本研究は,「成長期の運動および不活動がミオスタチン動態に影響を及ぼし,生涯にわり筋機能を決める要因となるか?」を調べることを目的とした。マウスの成長期中期(3〜5週例)に,1)除負荷(尾部懸垂),2)上り坂走(トレッドミル),3)下り坂走,のそれぞれの刺激を与え,その後通常飼育に戻して,ヒラメ筋および腓腹筋におけるミオスタチン発現量と筋線維あたりのサテライト細胞数の変化を経時的に測定した。その結果,上記のいずれの群においても,ミオスタチン発現量は5〜8週齢で低下,成長速度が低下する12週齢で増大し,成長期における力学的環境要因には強く影響されないことが示された。しかし,サテライト細胞の数については,除負荷群では対照群に比べ有意な減少が,2種の運動群では有意な増大が見られた。また,除負荷群では,筋重量が他群に比べ有意に小さく,その後の4週間の通常飼育によって他群と同レベルまで回復したものの,筋線維数は他群より少なかった。このことから,除負荷により,成長期に起こるべき筋線維の増殖が阻害されることが示唆された。そこで次に,成長期に除負荷後通常飼育し,さらに12週齢〜14週齢にわたりトレッドミル走を負荷した場合の効果を調べた。その結果,除負荷群では運動後,対照群(運動負荷のみを同週齢で与える)に比べ,筋重量が小さく,筋線維の平均断面積が大きいことがわかった。これらの結果から,成長期の力学的環境が成長後にも筋の運動に対する反応性とそのキャパシティーに影響を及ぼすことが示唆された。
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