研究概要 |
運動および筋虚血が,腹部内臓血流を減少させるだろうとこれまでいわれてきた.しかし腹部内臓の主要血管である上腸間膜動脈(SMA)の血流が,運動と筋虚血の両刺激により実際に減少するのかどうかについてはまだ明らかではない.またSMAが消化吸収を担う血管であることから,栄養摂取は,SMAの血流を増大させる刺激になると考えられる.このように「運動」,「筋虚血」,「栄養摂取」といった競合する刺激が同時に与えられた場合,SMAはどの刺激を優先させるのかといった対応の仕方については明らかではなかった.本年度ではこの点を検討するため,絶食(F)条件およびグルコース溶液摂取後(G)条件において,静的運動時と続く筋虚血時における上腸間膜動脈血流(SMBF)を検討した.10名の健康な成人女子を被験者とした.随意最大筋力の30%の負荷で2分間握力発揮を維持する対照実験と,同一の握力発揮後に上腕部を3分間止血する筋虚血実験を設定し,両実験をFとGの2条件下で繰り返した.F条件では前日夜から約12時間の絶食をするようにした.その結果,次のようなことが明らかととなった.(1)静的運動および筋虚血時におけるMAPとHRの応答には,FとGの条件間に相違はみられなかった.(2)F条件における運動時SMBFは,安静時値と変わらず,有意な変化を示さなかった.このことは,SMAが「運動」刺激による血流減少の対象血管にならないことを示唆していた.一方,G条件の運動時SMBFは,安静時およびF条件の値よりも有意な増大を示した.これらの結果から,静的運動時においては,「栄養摂取」刺激が「運動」刺激よりも優先されることが示唆された.(3)筋虚血時のSMBFは,両条件において安静時値および対照実験の値よりも有意に高くなり,代謝受容器反射を介する「筋虚血」刺激が,SMAには作用しないことが示唆された.
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