本年度は持久的な運動の習慣を有する被験者として、都内某大学の陸上競技部に所属する長距離選手、市民ランナーでマラソンレースの参加者、及びジョギング愛好家を対象とした。研究目的と当該研究によって得られる個人的情報の保護と人権の尊重に充分に配慮する事を説明して協力をお願いし、同意を得てから研究を行った。 駅伝選手やジョギング愛好家等は日常的に運動を行っており、調査日前の運動影響がない安静時のデータは取り難い。そこで、本年度は持久的な運動の前後での変動を測定する事に重点を置いた。また、調査時に身体計測及び採血・採尿を行い、肉体疲労度等に関して自記入式アンケートも実施した。本研究の学術的な特色・独創的な点である血清の総抗酸化能を超高感度化学発光法解析装置によって測定し、さらに血清中の抗酸化物質濃度・酵素活性等の測定を行った。測定結果は現在統計処理中であり、学会報告の準備を行っている。 また、市民ランナーを対象としてマラソン前後での末梢血中好中球と血中及び尿中のサイトカインの動態について検討を行った。レース後に棹状核好中球の増多が見られ、好中球の活性化を示すミエロペルオキシダーゼ等の血中濃度も増加し、マラソン後には好中球数の増加のみでなく、活性化もおきていると思われた。さらに、インターロイキン6及び8、顆粒球コロニー刺激因子の血中及び尿中濃度も著明に増加しており、これらのサイトカインが好中球の動員と活性化を仲介していると考えられる。この研究成果はMed Sci Sports Exercに掲載された。 さらに、マラソンを完走した36名の男性を被験者としてマラソンレース前後での好中球の活性酸素種の産生、食作用、及びCD11bとCD16の発現を測定した。マラソンレースによって好中球機能は低下し、その一部はCD16の発現減少に伴うと推察された。好中球数の増加は、機能低下に対する補償的な反応とも考えられる。この研究成果はLuminescenceに掲載された。
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