14年度に引き続き、会話データの収集を主として石川県外(長野、名古屋、東京、大阪)で行った。累積されたコミュニケーション・サンプルは、6歳から15歳までの子ども12名と大人15名、合計15組に達した。これらの累積会話データの包括的な分析を次のような手順で予備的に実施した。教師や保護者から子どもとの会話が明らかに崩壊したと感じる箇所の報告を受けた。その数は総計で22箇所であった。崩壊が生じる前後の会話の流れを1つの単位として特定し(会話崩壊イヴェント)、崩壊の引き金となった子どもの語用障害のタイプ分類、それに対する大人の反応の分類(語用障害の補償戦略など)を試みた。 その結果、子ども側の語用障害として、伝達における推論の失敗、判断要請への応答欠如、間接発話への応答欠如、指示対象の変更への応答欠如、大人の発話を会話の流れに関連付けることの失敗、過度に特殊な対象指示、自己特異的表現、ディスプレイの欠如、話題転換、不適切な発話の10種が区別された。大人が子どもの発話の伝達意図を誤解するケースもあった。子どもの語用障害のタイプに発現の偏りはなかったが、大人の発話と会話の流れとの関連付けの失敗が5組(子どもは4名)の会話でみられた。大人はほとんどの場合会話崩壊を補償的に修復しようとしたが4組で崩壊箇所をスキップしたケースがあった。大人の補償戦略は5つに区別された。大人のメッセージをより詳細な言語で表現する(9組)、子どもに明確化を要請(4組)推論(3組)、より情緒的な表現(1組)。子どもへの明確化要請には、意図を直接たずねるものもあった。大人の補償はおおむね崩壊の修復に役立ったが、情緒的な表現と疑問詞質問による明確化要請は、修復にいたらなかった。その中で疑問詞質問を「はい・いいえ」質問に変えたものは修復につながった。詳細な言語の使用と「はい・いいえ」質問の使用は研究代表者による助言によるものがあった。1ケースで子どもが明確化を要請した。会話データの記載法と分析手順について連合王国の研究者と意見交換を行った。
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