研究概要 |
1.多段階モデルでの発がん危険度の線量反応関係と年齢依存性について 遺伝的不安定性仮説に基づく放射線発がんの数理モデルは,多様な曝露状況に対応しうる汎用的な性格を有するが,年齢tや外部曝露による線量反応関係を概観するには,複雑すぎる形をしており,データ解析などへの応用に適していない.そこで原爆被爆者の状況を想定し.低線量の1点曝露の場合について,より単純な構造を有する式で近似することを試みた。その結果,(腫瘍の生長期間の長さを無視するとき)発がんの危険度は,若齢の場合を除いて,その絶対危険度は年齢のほぼ5乗に比例し増大し,超過相対危険度はほぼ被曝線量に比例し増大するが,その線量効果係数は年齢の逆数に比例して減少することが導かれた. 2.多段階発がんモデルのステージ数について 多段階モデルにおけるとステージ数と突然変異率の関係についてシミュレーションにより調べた。発がんの突然変異率とステージ数の関係は、細胞動態、すなわち、細胞分裂、細胞死、細胞分化の速度を考慮すると1対1の関係にはなく、複雑な関係にある。したがって、疫学データや動物実験データの発がん率のデータからだけからは、発がんのステージ数を決定することはできないことを明らかにした。 3.細胞死に関する多標的モデルについて いろいろな多標的モデルを開発した。細胞の生存率を解析するために有効性と思われる数理モデルの開発を試みた。古典的モデル、標的の大きさの不均一性への対処、染色体構造の反映、線量率依存性や修復機序の効果の存在への対処を可能とする各種モデルを構築した。実データを用いた解析例として、マウス小腸CRYPT密度のガンマ線照射後の線量依存性と味噌餌の効果に関するデータの解析を行った。 4.発がん危険度の個体差に対する揺らぎ構造について 「Armitage-Doll発がんモデルと大瀧ら(2001)が提案した発がんモデルを基底として、個体差を取り入れたガンマ揺らぎモデルと逆正規揺らぎモデルの一般化線形モデルをそれぞれ導きだし、数値実験と原爆被爆の形がん罹患データを用いて解析を行った。
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