研究概要 |
情報技術の発展にともなって、世界規模で市民の意識・行動の変化が、社会制度に追いつかない現象が頻発している。一方で、実践的な応用システム・工学システムの普及は著しい。この現実と理論のギャップの解決は次世代情報社会実現への焦眉の課題である。本研究では、豊富な内部状態をもつ個体(ソフトウェアエージェント)から構成される粒度の比較的大きい分散協調型システムのための計算モデル「組織計算理論」を構築し、あわせて、その有用性を実規模の問題に適用することで実証することを目的とする。 本年度の研究が明らかにした主要な項目を4つ挙げる。第1に、社会的合意形成の研究に関しては、エージェント・ベース・モデリングの手法が有用であること示した(寺野:人工知能学会誌,Vo1.18, No.6, 2003)。第2に、行動ファイナンスに関しては、認知心理学のプロスペクト理論に基づくエージェントの存在が、市場の非合理的な動きを説明することを示した(高橋・寺野:電子情報通信学会誌J86-D-1, 8, 2003)。第3に、金融制度のあり方に関しては、人工市場における人間プレイヤーとエージェントによる実験により、市場の安定性に関する知見が得られている。これらについては、Terano, T. et al. (eds.) : Meeting the Challenges of Social Problems via Agent-Based Simulation, Springer 2003で詳しく論じた。第4に組織科学に関連して、Axelrod等は「複雑系を慣らす」重要性を指摘しており、これを説明する書籍を翻訳出版した(「複雑系組織論」寺野訳,ダイヤモンド社,2003)。
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