研究概要 |
筆者はこれまで「部分的に遮蔽されたパターンを認識する神経回路モデル」の研究を進めてきた.これは,階層構造を持った神経回路モデルで,ひとたび遮蔽物体の切り出しができれば,かなり大きく隠されているパターンでも正しく認識する能力を持っていた.しかしこの従来のモデルは,ボトムアップの信号経路だけしか持っておらず,隠れているパターンを認識することはできても,隠れている箇所の形状を推定する能力は持っていなかった. そこで従来のモデルに,トップダウン信号の経路を追加し,ボトムアップ信号とトップダウン信号の相互作用によって情報処理を進めていく機構を導入した.この新しいモデルは,パターンの一部がほかの物体で隠されていても,そのパターンを正しく認識し,隠れている箇所を修復する能力を持っている.モデルに種々の文字パターンを学習させた後には,その文字パターンが多少変形していても,部分的に遮蔽された欠損部を修復可能であることを,コンピュータシミュレーションによって確かめた. またこれと並行して,階層型の多層神経回路モデルに適した追加学習方式に関しても研究を進めた.多層神経回路モデルとしては,筆者が以前提唱した神経回路モデル「ネオコグニトロン」を用い,このモデルに,あるパターンセットをいったん学習させた後に,さらに追加して別のパターンセットを学習させることのできる新しい学習方式を提唱した.多層回路に追加学習を行なわせると,往々にしてどのような刺激に対しても反応しない細胞が形成されて回路内のゴミになってしまうおそれがあるが,新しい学習法を用いれば,できてしまったゴミを取り除くのではなく,ゴミの発生を大幅に抑制することができる.
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