研究概要 |
好冷性ケイ藻のDMSP生成の特性を明らかにするため,水温,種,生長段階に注目しながら,1.7℃の低水温で室内培養実験を行った. 培養株は,サロマ湖で得られた海水試料から単離した好冷性ケイ藻3種(Cheaetoceros sp.,Navicula sp.,Nitzschia sp.)を用いた.植物プランクトンのDMSP生成能(細胞内DMSP量)の見積もりには,粒状態DMSP(DMSPp)濃度をクロロフィル濃度で割ったもの(nmol・L^<-1>-DMSPp/μg・L^<-1>-Chl.a)を用いた. その結果,粒状態DMSPおよび溶存態DMSP(DMSPd)は,Chaetoceros sp.の培地中では実験期間(約30日)を通して検出されなかった.それに対し,Navicula sp.およびNitzschia sp.の培地中ではDMSPが検出され,DMSP生成能は実験期間中(約60日)に変化していた.Navicula sp.およびNitzschia sp.のDMSPp/Chl.aは,いずれも,対数増殖期初期に約5nmol・μg^<-1>であったが,クロロフィル濃度や現場蛍光値が一定になった定常期初期には1.3nmol・μg^<-1>に減少していた.定常期初期から定常期後期にかけて,細胞内DMSP量は直線的に約5-10倍にまで増加した.これは,植物プランクトンが,生長をとめてからもDMSP生成を続けていたことを示している.このような種および生長段階ごとのDMSP生成能の特性が,低水温海域におけるDMSP分布特性に影響し,また,ケイ藻の種保存戦略につながっている可能性が示唆された.
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