研究概要 |
放射線の被曝線量と発がんリスクを評価するために,放射線高感受性マウスの開発とゲノム障害・修復蛋白質を利用した分子バイオドシメトリーの開発を行った。 1.エイムス試験の原理による放射線に高感度なマウスモニター系の開発 (1)mRev1の機能解析:mRev1は,損傷乗り越え型DNAポリメラーゼYファミリーの一つで,「誤りがちなDNA合成」により点突然変異を誘発する事を明らかにした。一方,Rev1のC末端100アミノ酸残基にRev7とPolκがに競合的に結合する事,並びにPolη,Polιも同じくRev1のC末端に結合することを証明し,Rev1が他の損傷乗り越えDNAポリメラーゼと複合体を形成する一端を明らかにした。 (2)Rev1トランスジェニックマウスの作成:放射線に高感度なマウスを開発する為に,mRev1を過剰発現したトランスジェニック(Tg)マウスを作成した。遺伝子発現の制御が可能なメタロチオネインプロモーターの下流にmRev1遺伝子を組み込んだMT-1プラスミドを構築し,Tgマウスの作成を行った。その結果,現在までに7系の独立したRev1トランスジェニックマウスを得た。これらマウスの各臓器よりmRNAを取り出し,mRev1トランスジーンの発現をRT-PCR法で検討した。各臓器でmRev1トランスジーンが発現していることを確認した。 2.低線量放射線の分子バイオドシメトリー法の開発 分子バイオドシメトリー法の開発を目指し,二重鎖切断部位で定量的にドットとして蛍光染色出来る蛋白質としてヒストンH2AXに注目し,H2AX蛋白質複合体の分離同定を行った。先ず,マウスH2AXを発現vectorに導入し,その際,N末端およびC末端にFlagおよびHAのepitope tagを付与した。このベクターを293培養細胞に遺伝子導入し,western blotting法によりH2AX蛋白の発現を確認した。次いで,H2AX複合体精製過程の条件検討を行い,その結果,マウスH2AXを複合体として精製することに成功した。またこれらの精製を行ったことにより,付与したタグを用いてのアフィニテイークロマトグラフィー精製の免疫沈降が可能であることも明らかとなった。
|