研究概要 |
1.種々のストレスによりp53のリン酸化が起こった。そこで、ストレスによるp53のリン化機構を単独のリン酸化部位で詳しく調べるために、15番目と20番目のセリン部位(S15,S20)がリン酸化できないS15AとS20A、擬似的にリン酸化したようになるS15DとS20Dの変異遺伝子を導入した細胞を作成して、放射線応答と細胞増殖への影響を調べた。 S20Dではp53の蓄積が見られたので、セリン20のリン酸化により、MDM2によるユビキチシ化とタンパク質分解が阻害されていることが伺えた。放射線に対してはS15AとS15Dともに下流遺伝子のWaf-1誘導能を失っていた。しかし、S20AとS20Dの変異細胞ではWaf-1の誘導が見られた。細胞増殖抑制能については、S15Aは抑制能を失っていたが、S15Dは強い抑制を示した。一方、S20Aは正常p53細胞と変わらなかったが、S20Dは逆に細胞増殖誘導を示した。 これらの結果は、Waf-1が細胞増殖を阻害する働きとは反対の結果となっており、ストレスによる単独のp53部位でのリン酸化による細胞応答には、Waf-1以外に未知の経路が働いていることが推測された。 2.そこで、DNAチップを用いて、S15Dにおいて誘導される遺伝子の解析を行った。S15D細胞では、Waf-1はもちろんのこと、それ以外の一般的なp53下流遺伝子の誘導は観察されなかった。しかし、細胞増殖やシグナル伝達に関わる遺伝子群の誘導と抑制が観察された。また、プロテインチップを用いて、シグナル伝達に関係するタンパク質の活性化を調べたところ、MAPキナーゼに関与したタンパク質の活性化や不活性化などが観察された。今後、さらに詳しい解析を行う予定である。
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