研究課題
基盤研究(B)
放射線誘発甲状腺癌の発症に関与する分子機序は、いまだ十分に解明されていない。発症した甲状腺癌が放射線によって惹き起こされたのか自然発症したのかを区別することできないことが機序解明を妨げている。したがって、放射線誘発甲状腺癌組織に存在する放射線障害の痕跡を探索することは、その発症機序を解明するために重要な点である。この目的のために、我々は、ゲノムDNAにくらべ修復能力が低いミトコンドリアDNAに注目して研究をおこなった。サンプルは、被ばく誘発甲状腺群としてチェルノブイリ事故後に、汚染地域で発症したロシアあるいは核実験場であったカザフスタンのセミパラチンスクの甲状腺癌組織を用い、コントロールサンプルとしては、非被ばく地域のロシアの甲状腺癌組織および血液を用いた。研究方法は、ミトコンドリアDNAの量の変化、コモン欠損領域の欠失の頻度および大規模DNA欠失に関して解析をおこなった。その結果、甲状腺癌組織では正常組織に比較してミトコンドリア量が有意に多いことがわかった。しかし、甲状腺癌の被ばく量あるいは病理組織型との間には相関を認めなかった。コモン欠損領域の欠損は、やはり甲状腺乳頭癌領域で多いが、被ばく量や病理組織型との間に相関を認めることはできなかった。一方、ミトコンドリアDNAの大規模欠失は、甲状腺癌組織で頻度が多いとともに、被ばく量に有意に相関して頻度の増加が認められた。この結果は、ミトコンドリアのDNA量と欠失を調べることにより放射線誘発甲状腺か否かを区別することが可能であることを示唆している。
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